のんびり公園で春を感じながら読みたい小説です
春。
新しい生活、新しい出会い、そして少しの不安。
そんな季節に私はいつも、「青春」を描いた小説が読みたくなります。
心がざわついているときほど、登場人物たちのまっすぐな思いや、少し不器用な成長の物語に救われることがあります。今日は、私が春にこそ読んでほしい青春&成長小説を2冊、ご紹介します。
皆さんも聞いたことのある小説だと思いますが、春風の中で読んでみるといいですよ
まずご紹介するのは、恩田陸さんの代表作ともいえる『夜のピクニック』です。
物語の舞台は、高校の一大イベント「歩行祭」。生徒たちは一晩かけて80kmを歩くという伝統行事に参加します。物語の中心にいるのは、クールでどこか距離を置いていた主人公・貴子と、同級生の融(とおる)。表面上は特に仲良くも悪くもないふたりですが、実はある「秘密」を共有しており、貴子はこの夜にそれを打ち明けることを決めています。
この作品の魅力は、特別なことが起こるわけではないのに、読んでいるうちにどんどん引き込まれていくところです。夜道を歩きながら交わされる何気ない会話、眠気や疲労のなかで徐々にほどけていく心。普段は話さないようなことを、夜だから、歩いているからこそ言える。そんな空気が全体を包んでいます。
春という季節は、進学や進級、就職など、何かと「別れ」と「始まり」が交差する時期です。この小説のなかにも、友情や恋、家族との関係など、さまざまな感情の節目が丁寧に描かれています。
「自分にも、こんな一夜があったかもしれない」
そんなふうに思わせてくれる、心が静かに揺れる物語です。
タイトルにびっくりされる方も多いかもしれませんが、『君の膵臓をたべたい』は、決してホラー小説ではありません。むしろ、とてもやさしく、切ない青春小説です。
物語は、主人公の「僕」が、ある日病院で見つけた一冊の「共病文庫」から始まります。それは、クラスメイトの山内桜良が綴っていた日記。彼女は膵臓の病気を患い、余命わずかだということを、周囲には秘密にしていました。「僕」はその秘密を偶然知ったことから、彼女との関係がゆっくりと変わっていきます。
真逆の性格のふたりが、すこしずつ距離を縮めていく姿には、なんともいえない美しさがあります。特別なことはしていない。ただ一緒に時間を過ごし、互いの価値観に触れ、やがて影響を受け合っていく。その過程がとても丁寧に描かれていて、読み終えた後、心にやさしい余韻が残ります。
桜良が話す「生きることの意味」や「人と人とのつながり」に関する言葉は、春という季節に読むと、より深く染み入ってくるように感じます。別れがあるからこそ、出会いが愛おしい。限りがあるからこそ、日常が輝いて見える。
「今、この瞬間を大切にしたい」と、自然に思えるようになる一冊です。
おわりに
春は、ふと立ち止まって自分を見つめ直したくなる季節。そんなとき、まっすぐで少し不器用な青春小説は、心にそっと寄り添ってくれる存在になります。
今回紹介した『夜のピクニック』と『君の膵臓をたべたい』は、どちらも「成長」と「感情の揺れ」を丁寧に描いた作品です。これから新しい道を歩き始める方、自分を見つめ直したい方に、ぜひ手に取ってみてほしい本です。
小説のなかにある、誰かの“春”が、あなたの春と重なるかもしれませんね